【庄司直靖より~はじめに】
海の資源が減り、世界中で養殖は盛んになっている。
世界では海面養殖で付近の海域が汚染されたり、ある動物が駆逐されるなど、問題も山積みである。
さらに、温暖化からの海水温上昇で海面養殖魚介の種を変更する事態に及んでいる。
一方で陸上養殖は、上述の懸念が無いとされ世界中で拡大している。
その陸上養殖の内実は、不自然さも垣間見える。
事業者なら気付いている。一定期間内に早く育てることに腐心する形を「採算が取れる陸上養殖」と思い込む。
初期は事業者皆さんが考えるブランド化である。それは1匹の価値を高め採算ベースに乗せる第一手段だ、と思い込む。次は生産コストを下げる手段である。
ブランド化を考えるのは簡単だから成功した後で実は足りる。
一番大事なのは生産コストだ。初期設備投資は多少の違いあれ、どんなメーカーのを入れても後で気づけば似たようなもののはずだ。
もっと未来の姿を想像してみよう。
一般消費者が買うとき、この魚介はココでこんな風に育ってるんだ!
と、タイムリーに皆に解放された、明るく影のない陸上養殖の姿を。
同じお魚がスーパーの陳列棚に2つあって値段が少し違った。消費者はどちらを選ぶか品物を手にした。
最初に手に取ったのは陸上養殖で半年で育て出荷されたお魚で、どんな餌でどうやって育ったのか知ることができなかった。
もう一方も陸上養殖の魚だが、パッケージのQRコードからタイムリーに全てを知ることができた。餌は大きく早く育てる工夫ではなく、オーガニックテイストの餌で薬も使わずゆっくりと育てられていた。
一般消費者が後者を選ぶのは子供だってわかる。
それでは、未来に訪れる「陸上養殖の姿」
創造いたしましょう
下の図は、見た目の違いあれ従来通りの養殖設備の簡易図である。
例えば
養殖槽が3トンなら、濾過槽は最低で1トン(大きなほど良いが)になり、総水量は4トンとなる。
※総水量から養殖魚を入れる密度を算出する事が当然だが、昨今は養殖槽だけの水量から算出する場合があるため、過密に維持できると勘違いさせる手法も流行っているので注意したい。単純にろ過装置(濾過槽)が大きなほど永続する維持費用は安くならないからだ。要するに養殖槽自体はどんなメーカーでも同じような物で、最大の違いは施工するメーカーのろ過装置となる。
温調機はこの例では、5トン用を使用し、的確な温度を維持する。
濾過槽が1トンの場合、入れるろ材は700㎏分、という考察。
「養殖槽」
施設内における季節の外気温を考慮し、暑ければFRP槽などにし、水温が保持しやすいものにする。水温保持が不要な丈夫な種は関係ない。
「濾過槽」
なるべく大きな方がろ材は多く入り水質も安定するが、定期的にろ材の70%程度を洗う時の重労働はかなりきつい。仮に700㎏の70%で490㎏分を濾過槽から出して洗う。これを永続する、保持するとは、半端じゃない。しかし、タンク式のろ過装置などもある。これは逆流により汚水を排出できるためメンテナンスが楽になる。しかしある期間を過ぎればろ材能力は激減するので、やはり大きな費用と手間がかかる。デメリットはなんにでもある。
ろ材能力が半減した時、養殖槽には保持する生き物が居る。するとすぐに使える交換用のろ材490㎏分を別に用意しておく必要がある。
養殖槽の収容%=飼育槽+ろ過装置【総水量から】
「ついでの水交換」
濾過槽からはろ材の溜まりカスが大量にでる。だからついでの水換えは理にかなっている。図の全体水量(総水量)が4トンの場合、水換え量が総水量の30%だと1.2トン。ただ水を交換する、ではない。特に海水の生き物なら、元の設定温度の±3℃以内にすることが重要になる。3℃以上温度差がある水換えは1発斃死または病気の引き金になるのは当たり前のことだ。すると、元の水温から3℃以内の海水1.2トンを別に用意しておくことが重要になる。
「温調機」
ヒーターや冷却機は、電気代も喰うし室内の大型エアコンで水温調整しようとする大まかな事業者もおります。が、川にいる淡水魚や熱帯魚ならまだしも、広~い海の生き物は全て、温度が違うと移動し、移動できない貝や海藻は死に、温度が合えば繁殖する機会を得ます。ということは、海の生き物は全般、室内からの温度管理は小さな場所だったら有り。大きな施設では無理。
「ここまでの再考察」
今、陸上養殖事業をされている方々にも、上述に思い当たる節があると思います。これらはある程度のサイズまで育っていれば、いろいろを乗り越えることもあるという感じで、仔魚期や稚魚期だけは特に気を付けましょう。
【ウナギ養殖の例題で、もう少し考えよう】
「急ぐから高温にする」
無加温では1年半でもそう大きく育たない。成長には温度変化も重要。
自然界の温度変化と、似せて再現するする事はどの種にも実は必要。
これには通常の加温性能(ヒートポンプ・ヒーター等)を3割程度にし、晩秋には徐々に低下し、早春には徐々に上がるように仕組む。
例えば3tの養殖槽なら、1t用の温調機を使用すればよい。
これで年間の電気代も抑えられ、生体にとり良い影響も及ぼす。
「初期の急ぎ出荷の考えが病気のもとになり後で大変になる」
どの産地の稚魚なんだろうか。
日本産・ヨーロッパ産・アメリカ産は、寒い時の産物であり、川に遡っても「暖かくはない場所」に生息している。四万十川の天然ウナギは、四万十の冷たく清らかな川水であんなに立派に育っている。
東南アジア産だけは、稚魚期から暖かく温暖な場所に生息している。
日本で陸上養殖をする場合の輸入仕入れ先は、東南アジアのビカーラが多かったが、昨今はヨーロッパやアメリカ産もある。
ということは高温に合わない生態のウナギが多くなっていたりする。早く育てたいから高温で。とは、ウナギが「丈夫だから行っている」だけだ。どんな場所で育つ種なのかを念頭に置くことは一番の近道。
丈夫なのが災いし、高温に適合した病気が流行る。
病気が流行り出すと、養殖槽を空にし殺菌洗浄し乾燥する。
同時に濾過槽の中身(ろ材も)を洗い殺菌剤で洗い、を繰り返す。
陸上養殖の未来の姿。50年後も同じことをしてると思いますか?
「給餌はかなり少なくてよい」
自然界でのウナギの餌は、ミミズ、エビ・カニなどの甲骨類、死にかけの魚類、貝類などがある。動きが遅く栄養価が高い物である。
自然界では天然の「生きた餌」を食べる。これを生体触媒という。
(人類だけは火を通したものも食べるため、生体触媒が希薄である。このため病気が後を絶たない)
例え川底で死んでいる魚肉をウナギが食べていても、生体触媒は行われている。
なぜか?
自然界では、死んだ魚肉には直ぐに分解する微生物が喰いつく。
その死肉と共に、微生物をいつの間にか食す事によって生体触媒は行われている。
要するに微生物食は触媒する鍵となっている。
この生体触媒は人の食で言うところでは、発酵食品と同じ原理。
少しはご理解いただけただろうか?
人工餌をどんなに駆使しても、自然界で死んだ魚肉にも勝てない。
近未来の理想給仕は「人工餌+生きた餌」=「半自給自足」
生き餌を自然繁殖させながら、養殖槽と連通し、生体触媒を完結する。
(生体触媒とは、人が息をしているだけでも空気中に運ばれてくる微生物によっても体内で行われている。同じように水中でも微生物の生息環境が整っていれば生体触媒は行われている。生体触媒とは多彩な微生物がいつまでも類題交代できる「微生物生態系」を指す。
「定期的なろ材洗浄と水換えは何を指すか」
ろ材を下手に洗うと従来式で言う「ろ過バクテリア」が落ちる。
ろ過バクテリアが落ちにくいよう、飼育水で洗うなど工夫する。
洗った結果、水質が安定期に入るまで、魚病や白濁りが発生する。
時間経過でだんだんと安定期へ入る。
やっとのことで安定期へ入ると、近くろ材を洗う日が近いことを示す。
水を換えるのもコツがいる。いくら丈夫なウナギでも、30℃近い水が抜かれ、冷たいお水に交換されたのでは、病気にもなる。
「ろ材の浄化バクテリアを過信してはいけない」
ろ材は単に糞と残滓を絡めているに過ぎない。なぜなら、自然界の浄化バクテリアにそんな機能は無い。自然界の浄化バクテリアは、硝酸塩もアンモニアも全て、二次の分解者(バクテリア)に、分解されやすいように一次分解者の役目を果たしているに過ぎないからだ。自然界では大きく分けて三次までの分解を同時に行い浄化している。
一次分解者=通常のろ材に着くバクテリア 「好気性バクテリア」
二次分解者=通常の濾過槽を少し嫌気状態 「通性嫌気性バクテリア」
三次分解者=濾過する場所を完全に嫌気状態「偏性嫌気性バクテリア」
ろ材に一次分解者が一時的に住んでも、二次分解者、三次分解者と連動する分解者が居ないから、水が腐る方向へ向かうしかないのだ。
その証拠に、海は水換えなく何十億年と浄化されている。
自然界微生物の連鎖が水を浄化し、分解する方向を曲線に示したものを
水の平均の法則という。
(スーパーナチュラルシステムは水の平均の法則に従ったシステム)
ろ材に一時的に付着する一次分解者=ろ材だけで浄化できない仕組み。おわかりいただけただろうか。
「回転率を上げる。が指すもの」
一定の人件費を含めて、同じ経費内で、売り上げを向上するため。
年に何回出荷できるか。どれだけ短期に成長させられるか。という。
要は暇になるほど少ない労力なら、機械化(システム化)するだろう。しかし、オランダなどの国と違い、政府の永続支援はない。
このため回転率は重要な位置づけとなっている。
ならばだ、最初から餌を半自給自足にする養殖システムが未来の姿。
凄い資料を公開.例題はウナギ
お見苦しい資料ですいません。
これは実際には、3槽の高低差はあまりなく、塩ビパイプを通して曝気による水の循環をする。理由はポンプ循環ではスクリューにカスが溜まり、故障の恐れがあるためと、微細なイソメ幼体を扱うこと。
ウナギ槽の残滓が溜まりやすい場所を流れで作り、その底辺に塩ビパイプ曝気による吸い込み口を着け、上記3槽の上部槽へ落とす。
あとは横オーバーフロウで下槽へ流れ、ウナギ槽へ返る仕組み。
ポイントはウナギ槽の残滓を餌にイソメ類が育ち、成長すると繁殖のため夜間に泳ぎ、適度な量がオーバーフロウからウナギ槽へ入る仕組み。イソメ類を繁殖させるのはスーパーナチュラルシステム槽は簡単。
同時にナマコの幼体または育った親ナマコを初期に入れる。ナマコとイソメ類は夜行性であり暗い所を好むので3槽はどれも光があまり入らない槽などを使う。この場合ナマコが繁殖までできるのか気掛かりだと思うが、スーパーナチュラルシステムでは何もすることなく勝手に増える。しかし、大量に増やすには大掛かりになるので、ウナギの残滓を利用した二次副産物、と考える。
①曝気流を利用し残滓の処理。
②水換えがないスーパーナチュラルシステムの敷設。
③生きた餌を年中供給する仕組み(半自給自足)
④これは海水でのウナギ養殖となるが、スーパーナチュラルシステムは海水淡水汽水なんでも同じ事。
⑤高温で飼育するのではなく、定量の30%程度の温調機と、初期18ヶ月の健全なスパン。季節で緩やかに変温する仕組みは、他のどの種でも有効。
※よく「水換えをしたら成長が早まった」という場合はコレだ。自然界と同じ緩やかな変温は必須条件といえる。
またまた下手な図ですいません。
上は縦型にしてみた図。図では右にウナギ残滓の落下経路があり、親ナマコ、稚ナマコ、イソメ類と、有機物の大きさが下層ほど段々に細かくなり、それぞれの残滓分解者を育てながらウナギ槽へ戻る仕組みをイメージした。このページ上層の水の平均の法則で述べたように、浄化バクテリアでも何段階もの分解者が、それぞれ居ない限り水は浄化できず、ただ腐る方向へと向かう。
残滓を有機物として有効に利用する仕組みも、これと全く同じなのだ。
要するに小さな地球生態系を「似せて作る」ことが未来の陸上養殖の姿ではないだろうか。